業界top企業にはそれなりの理由がある

グーグル? すごいとは思わないね - 日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20091222/211839/

Yahoo!の井上社長のinterview記事です。同じIT企業であるYahoo!Googleの様々な違いが分かって、大変興味深く読めました。

Titleは日経business onlineの煽りでしょう。

グーグルで働いてるけど何か質問ある?
http://brow2ing.doorblog.jp/archives/1371414.html

恐らく元々のその発言もこのthreadに影響されたのでしょう。

Y!さんからシェアを奪うことも大事ですが、もっと検索って楽しい、便利なものだって知ってもらうことからですかね。
僕なんてなんでもググってますけど、そうじゃない人が圧倒的なので。

Y!でも検索しますよ。というかY!をよく見てます。やっぱりよくできてますよね。

頑張ります。でも孫さんすごいですよ。Y!のスタッフも優秀ですし、素晴らしいライバルです。

はてなbookmarkでもかなり話題になってますし、名指しされたYahoo!の社内staffが読んでないわけありませんしね。

日本国内で勝負していくつもりのYahoo!、元々global企業のGoogle

 井上 まずは整理しておきたい。我々は「ヤフージャパン」というくらいなので、基本的には日本というテリトリーでビジネスをすることになっている。ヤフーというブランドを、日本国内に限って利用できるとも言える。

 (こうした会社が)海外に出て行く必要性や余裕が本当にあるのか。僕はまだ、日本のマーケットはずいぶんと伸びると考えている。実は皆さんが思っているほど心配していない。

 井上 (今の枠組みでは)海外に横展開するのか、日本市場を深く掘るのかどちらかを選ばなければならない。「ヤフージャパン」としては、国内の伸びの方に賭けていきたい。

元々日本Yahoo!は米国のYahoo!と日本のSoftBank合弁会社で、日本だけでやる会社として作られたわけで、その時点で日本Yahoo!は世界に向かって出て行く理由がありません。ですから、日本Yahoo!が日本だけでやっていくというのはよく分かる話ですが、global企業のmeritが受けられず、頼りない経済状況の日本だけでやっていくのはもしかしたら大変なのかもしれません。その点ではGoogleは有利です。

世間に目を付けられないよう大人しくしているYahoo!、法律に果敢に挑戦するGoogle

法律がなければできることはたくさんある。ルールの中でできることをやろう、と考えると限定される。やっちゃいけないことは、やっちゃいけないんだよ。

 グーグルですごいと言われているのは、いずれもグレーゾーンのものではないか。検索連動広告は米ヤフーの真似だし、ストリートビューはすごいけど一種の「のぞき」。ブックサーチは著作権無視のコピーだ。YouTubeだって、違法の動画がトラフィックの多くを占めている。

 すごいのはすごいけど、そういうことを企業としてやってしまってもいいのか。ヤフーなら絶対に、手前で法務からストップがかかる。

 井上 企業それぞれの考え方だけど、これをすごいと言う方が間違っていると僕は思う。これと比較して、ヤフーはすごくないと言われるのは心外だ。ルールを守った上ですごいサービスがあれば、素直に負けましたと言うのだけれど、それほど世の中にあるわけではない。

これは以下の記事がほぼ全て書かかれてしまっています。

Googleは違法会社で、ヤフーは合法会社か? - 滝井秀典 キーワードマーケティング・ブログ
http://www.h-takii.com/archives/51769889.html

この記事では挑戦するGoogleにはchanceがあって、そうでないYahoo!にはchanceがないなどと書かれているように読めます。確かにそのとおりでしょう。ですが、ここは日本です。Galápagos諸島日本です。世界の常識は日本の非常識です。油断してはいけません。

まず、日本では法律よりも空気が大切です。首相からして何故辞めないのか意味不明の国です。空気で「それで良し」となれば、何でも許され、空気で「それは悪し」となれば、何をやっても引き摺り落とされます。この記事では日本は法治国家でなく、「情緒国家」などと冗談めかして書いていますが、そのようなところはあるでしょう。

恐らく法律に挑戦するような態度は欧米では通用しても、日本では鼻摘まみの対象となるでしょう。それで合法となっても、空気は許してくれないでしょう。日本の出版業界の反応を見ていれば分かります。裁判で白黒付けようなどという理屈は通用せず、挑戦するような態度がまず叩かれるでしょう。

つまり、日本では裁判所の判断が下される前から、個人個人にとってこれは善、これは悪という基準が元々定まっているのです。その基準に照らしあわせて結論が出れば、法律がどうなっていようが、裁判所が何を言おうが、その人はお構いなしです。そういう人たちが大多数だとそれが空気になります。

曰く「あいつはよく分からないけど、卑怯なことをやっているはずだから、許せない」、曰く「あいつはずるい。あいつだけ儲けていて、許せない」、大概はこんな思考patternです。金融の仕組みを学んで、経済を活性化しようとか、ITを理解し、ITに投資しようとかいう発想は出てきません。数学、論理学、計算機科学、経済学みたいな舶来の学問のことなんて分からない、そんなのはどうせ詐欺、いんちきに違いない、詐欺師は出ていけ、と、まあ、このようなものです。

Yahoo!は法律を守ろうとしているのではなく、世間に頭を下げて、大人しくしておこうとしているだけです。世間がYahoo!憎しの空気で染まったら、これはもうどうしようもありません。ですから、寝た子を起こすよりは、大人しくしておいて、商売は上手いことやろうということです。妥協して、談合して、美味しいところは確実に頂こうというわけです。

Googleが日本で上手くやっていこうとしたら、日本の仕組みをhackするのもいいですが、それ以前に日本の流儀を深く学ぶ必要があります。堀江さんが失敗したのはここです。中2病みたいに、俺が日本を変える! 世界を救う! みたいなのは逆効果です。それが実際にそうであってもです。

日本では正しいことを言ってはいけません。正しいことはそれだけ聞く者を傷付けます。正しくない人にとって、正しいことを聞かされることほど辛いことはありません。正しいことを言っても、馬鹿にされるか、笑いものになるか、逆恨みされるかです。数学、論理学、計算機科学、経済学なんて分からない、外国人の決めたruleに従いたくない、自分たちが間違っているのではなく、世界が間違っているのだ、何故だか分からないが、お金の稼ぎかたはどんどん分からなくなっていくけど、生活が保障されて当然だ、面白い娯楽が提供されて当然だ、様々な欲望が満たされて当然だという人ばかりの日本では、人々の御機嫌伺いをして、少しずつ、1歩1歩進めていくしかありません。

Speedが通用するのはdigital nativeまで

 単純に突っ走るだけなら簡単だ。しかし今のヤフーは、万が一失敗した時に失うものが多過ぎる。大企業になって守りの比重が高まっているとも言える。

 例えば情報漏洩でも、小さな会社なら被害は1万人だが、ヤフーなら3000万人のユーザーに迷惑がかかる。セキュリティなどで確認する時間が増えるのは当たり前のことだ。1万人の会社よりも手間暇をかけなければならない

これだけcomputer security危機が問題化している現代では、このような考えかたは合理的でしょう。守りというのは前節で述べた、世間の空気が反Yahoo!に染まらないようにする対策というのも含んでいるはずです。Web serviceを新規開発しても、それが日本人の感情を逆撫でするようなweb serviceかどうかをじっくり精査する時間が必要なはずです。凄腕hackerが「hackしといたよ。効率を1000%に改善したよ」というようなことを無邪気に言うような態度は許容されません。日本では、結果や効率でなく、説明や対話、相互理解が求められているからです。

 ウェブサービスはいい加減にやっていいものではない。そこを無視して、「ベンチャーはスピード感が命」とか言うのは、そっちの方が問題じゃないかと思っている。

Speedが早くても、それにすぐ飛びつく人たちは、元々digital nativeです。そのような人たちはまだまだ少ないです。もっと多いのはcomputerなんて日常的には触らない人たちです。そのような人たちにも使えるweb serviceを作りあげようとしたら、それはかなりの時間が掛かります。

まとめ

業界top企業は何も運が良かったからその座に居座っているわけではありません。顧客の声に耳を傾け、国や民衆の性質について理解し、ときには非合理なことをも受け入れ、環境に適応するために努力してきたからです。

人が仕事をして対価が貰えるのは能力格差があるからです。格差がなければ、誰もお金を払う必要がありません。つまり、能力がない人たちがいるから商売が成り立っているわけで、日本人の多くがIT literacyが欠けているとしたら、それはbusiness chanceなのです。そんな日本人がおかしいのではなく(仕事をする側としてはおかしい人たちは沢山いますが)、そんな日本人に受け入れられない企業のほうがおかしいわけです。

日本に適応し、保守的な道を歩むことにしたYahoo!と、その牙城に切りこもうとしているGoogleのこれからに注目していきたいです。